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 転職
【溶けゆく日本人】 孤独な職場 成果主義…責任回避する上司



 同じミスを繰り返す部下に、上司が職場で怒鳴りつける。部下は平謝りするだけ。その夜の英会話教室。2人は互いの名を「ちゃん」付けで呼び合う。そして、謝るのは今度は上司の方。部下は笑って切り返す。「いいよ、僕たち○○友(とも)じゃないか」

 これは、最近話題となった英会話学校のテレビコマーシャル。職場と私生活の上下関係のギャップをコミカルに描いている。

 「上司と部下の距離感に、公私でこれほど差があるのは異常。だが、これをいい関係性だと考える風潮がある」。こう指摘するのは、『健康な職場の実現』などの著書がある社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所副所長の今井保次さん。こうした時流は、現実の職場に巣くう「対人関係の希薄さ」の反動と考える。

 浅薄な人間関係が業務に重大な支障を来した事例がある。日本有数のメーカーで、顧客情報の管理システムの構築を分担作業で行った際の出来事だ。30代の男性社員の作業が極端に滞っていたことが発覚した。判明したのは、システム完成予定日の前日。それまで上司も同僚も誰一人として、作業の大幅遅延に気付かなかったという。

 「作業日程を延長して、同僚を何人も投入したがそれでも人手が足らず、結局、派遣社員を雇った」と関係者。それほどの遅れに気づかぬほど、社内の“血流”は滞っていた。

 結局、関連する他部署の業務にも影響し、会社に大きな損失を与える結果に。「仕事が『できない(社員)』と周囲に思われたくなくて、言い出せなかった」と男性社員。大企業とは名ばかり、孤独との戦いだった。

 「部下の異変に気づかないなんて支店長として失格。若い支店長として期待されていたのに」

 勤続23年で銀行の支店長に昇進した40代半ばの男性は、着任4カ月後、部下がパニック障害で休職するという事態に遭遇した。部下から悩みを相談されなかったことへの苛立(いらだ)ちと、部下に裏切られたような感覚。そして、自分のキャリアに傷がつくのではないかという不安…。男性は落ち込んだ末、専門のカウンセラーにすがった。

 決して希有(けう)な事例ではない。組織内の上下間の意思疎通、信頼関係が希薄化しているのだ。その結果、近年頻出するようになった上司の常套(じょうとう)句があるという。部下から助言を求められた際の、「その仕事は任せたんだから、やりたいようにやりなさい」という言葉だ。

 聞こえはいい。だがその多くは、的確な指示やアドバイス、適切な関係構築ができない自分の「無能さ」を悟られないようにするために発するケースが多いという。表面上の上下関係は維持したい、一方で、指示したことによる共同責任は負いたくないという思いが潜む。

 企業内研修に長年携わってきた今井さんによると、結果として招くのは部下の不信、士気の低下だという。そして、関係がさらに希薄化するという悪循環を起こしている。

 責任を放棄する上司が増える背景にあるものは? その1つとして、今井さんは、広がる「成果主義」を挙げる。「成果主義では、個々の能力が問われる。だから、部下は無理をしてでも期待に応えようとする一方、上司は(部下の監督責任は問われても)『連帯で責任を負う』と言わずに済むような体質を育てている。成果主義とは、組織の上に行くほど都合のいい制度なんです」

 「職場での孤立」を防ごうと、社員旅行や社内運動会を導入・復活する企業や、インターネット上の会員サイト「ソーシャル・ネットワーク・サービス」を開設し、社員交流を促そうとする企業もある。

 上司や同僚との人間関係に対する悩みなどから、社員が「心の病」に陥らないよう、カウンセリング態勢を整える企業も増えている。中でもユニークな取り組みをしているのが、住友商事(東京)。同社が一昨年に設けたカウンセリングセンターは、本社とは別棟にある。会社側の評価や同僚の目を気にして社員が相談できないのでは、問題が深刻化するので、相談者と相談内容を極秘扱いするための配慮だ。

 センター長で産業カウンセラーの氏橋隆幸さんは「社員の心の問題や悩みは仕事のパフォーマンスに大きく影響する。その解決を支援することは社員と会社の双方にメリットがある」と話す。

 成果主義が広まる職場で、比例して拡大する社員の対人関係不全という不利益。多くの企業を見てきたシニア産業カウンセラーの原良子さんが、指摘する。

 「日本の企業は、チームで仕事をするという伝統的な価値観を置き去りにして、表面的な成果主義だけを導入した。日本の企業は今、その弊害を反省し始めている」

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(2007/05/30(水) 15:14)

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